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廃れゆく落語界の舞台裏で噺家たちが見せる素顔『昭和元禄落語心中』【漫画レビュー】

今回はAmazonプライム会員なら無料でアニメまで楽しめてしまう『昭和元禄落語心中』のご紹介です。

時は昭和。
刑務所から出所したばかりの元チンピラ・強次(きょうじ)が向かった先は寄席でした。
一年前に刑務所内で行われた落語慰問会で、噺家(はなしか)の大名人・八代目有楽亭八雲が演ずる落語『死神』に感銘を受けた強次は、その大名人に弟子入りを志願しに来ました。
その身一つで落語界に飛び込んだ彼は、ヘンクツな師匠の下で与太郎という呼び名で親しまれながら、一人前の落語家を夢見て修行に励んでいきます。

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自分の芸を残す気は無い最後の大名人

与太郎が一目惚れし、人々からも絶賛される芸を持ちながら、八雲は弟子を一切取らないという姿勢を貫いていた落語家でした。
しかし、与太郎の天真爛漫な性格を気に入り、子犬を拾うかの如く気まぐれに弟子入りを承諾しました。
ただ、弟子に芸を教えることはなく、家事や雑用をさせるでもなく、八雲の振る舞いは腹が読めないミステリアスなものでした。

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亡き落語家の娘・小夏

二代目有楽亭助六(すけろく)という、かつて八雲と肩を並べた才能ある落語家がいました。
彼の死後、八雲は彼の娘である小夏(こなつ)を引き取って育ててきたのです。
しかし、小夏は亡き父への想いがこじれ、八雲への不信感を募らせる一方であり、二人の関係は悲しく複雑なものになっていました。
そんな彼らの家に与太郎がやってきたことで、二人の関係にも少しずつ変化が訪れるようになります。

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過去の恩人からの誘い

八雲からようやく前座を務めることを認められた与太郎は、忙しい日々の中で落語界隈のことを覚えていきます。
そんな時、かつて与太郎の親代わりをしていたヤクザとの再会を果たします。
落語なんか辞めてまた悪事をしようと誘ってくる兄貴分に、与太郎は自分の落語を見せることになりました。
『伝えたい』『笑わせたい』という想いがこもったその寄席は、見る人々の心を動かせるのでしょうか。

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現代でも現役の粋な伝統芸能

キャラクターそれぞれが落語に対する強い想いを持っており、それが絡み合うことで、繊細な人間模様が展開されていきます。
作中の昭和に生きる八雲は、落語は廃れゆくものとして諦観していますが、平成になった今でも落語は現役の芸能です。
巻末には寄席の楽しみ方なども解説されているので、この作品を読めば、落語の魅力を知るきっかけになるかもしれません。

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