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出世欲と物欲の間で揺れる数奇な戦国武将の生き様『へうげもの』【漫画レビュー】

今回は欲にまみれる人間らしい戦国武将・古田左介(ふるたさすけ)を中心に描かれる歴史コミックのご紹介です。

世は戦国時代。天下統一の道を猛進する織田信長の家臣・古田左介。
彼は後に古田織部(ふるたおりべ)と呼ばれる、武将であり茶人でもある数奇者。
茶道具を始め、数々の名品や建造物などの『物』を見る目に長けた彼は、その独自の視点をもって戦乱の世を生き抜いていきます。

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武士道に従うか、物欲に従うか

戦国の武人である以上、やはり目指すべき地位は天下の大大名。
出世するためにはそれ相応の働きが必要です。
左介は細々と功績を重ねつつ、主君への忠義を示そうと意気込みますが、素晴らしい珍品や名器と出会う度に、彼の魂は即座に魅了されてしまいます。
抗い難い物欲を掻き立てられる中で、武人という立場を持つ左介はどのような選択をしていくのでしょうか。

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戦国時代の豪華な顔触れ

外国の文化も積極的に取り入れる織田信長の元には、数々の珍品が揃っていました。
そして信長は、物の価値をよく理解する左介を呼び付けて、装飾や名器、時には壮大な野望を披露し、その驚く顔を楽しんだりします。
本作品では他にも、豊臣秀吉や明智光秀などの名立たる武将たちが、各々の逸話や縁の品と共に、何とも味わい深い表情で描かれていきます。

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はるか上をいく才人

左介は、大安宅船の観船式で千宗易(せんそうえき)と出会います。
後に千利休として名を残す茶聖です。
観衆の中、戯れ言を吐いた商人の首を刎ねる信長に対して、宗易は一切の物怖じもせず意見を述べます。
その才人としての風格に圧倒された左介は、後日、宗易の茶室へ招かれることになります。
そこで全く新しい様式美に衝撃を受け、左介は宗易への弟子入りを乞うのです。

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戦国時代の面白さは合戦だけではない

大きの歴史ものではあまり詳しく描かれない『物』にスポットライトが当たっているため、戦国時代の作品を多く知る方でも、新たな視野が開けるかもしれません。
緊張が絶えない戦乱の世を、当時の芸術と、たっぷりのユーモアを織り交ぜて描いた異色作です。 作中の絶妙な音や声が文字で表現された、独特の擬音語にも注目です。

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